斑目晴信27歳


電車を降り、地下道を出たら雨が降っていた。
家を出かけるときは晴れていたのに・・・。
傘は持ってないから、俺は、アーケードの間を
小走りで走った。


今日は大野さんと田中の結婚式だ。
俺は二次会に招待され、そのときのスピーチを頼まれたんだ。


大野「斑目さん、是非!私達の結婚式のスピーチをお願いしたいんです・・・!」


頼まれて悪い気はしないけど、本当に俺でいいのか・・・?
こういうの緊張するな・・・。


会場に着くと、久我山に笹原姉妹、萩上、クッチーが座っていた。
後は会社関係か・・・?あの二人はいないな・・・。


「春日部さんたちは遅れてくるみたいですよ?」萩上さんが教えてくれた。
みんなあのときのまま付き合ってんのな・・・仲のいいことで・・・。
そういやみんなとはすげー久しぶりだ。みんな変わってないな・・・。


斑目「お前まだマンガ描いてんのか?」
久我山「あ、ああ。ああいうのはなかなかやめられるもんじゃないしな・・・。
    お、お前こそどうなんだよ」
斑目「最近アニメとか全然わかんねえ・・・ギャルゲーも今や部屋の肥しだな・・・。」


いわゆるオタク趣味に、以前ほどのめり込めなくなったのも本当だけど、
オタクをやめたら俺の中から、何か別の何かが沸いてくるんじゃないかって
期待も、昔はあった。だけど、そういうものじゃねえみたいだな・・・
昔、咲ちゃんに
(オタクはなろうと思ってなったもんじゃねぇからやめる事もできねぇよ)とか
エラそうに言ったような気がするが・・・確かにやめようと思って
やめられるもんじゃないかも知れないが、気づいたらオタク趣味への興味は
なくなってるもんなんだな。
本当にやめることが出来ないのは、オタクじゃなく、自分自身だ・・・
まあ、オタクにさほど興味がなくなったってのも本当だし、
ムリしてつづけることはないさ・・・


新郎新婦が出てきた。げええーっ!二人とも、コスプレで出てきやがったー!!
会社の人間、そして俺らげんしけんのメンバー問わず、会場は
爆笑と拍手喝さいの嵐につつまれた。


「何と!この衣装は、新郎である田中総市郎さんが、この日のために丹精こめて
 作り上げたものなのです・・・!」司会が言うと、会場はまた大いに盛り上がった。


何か楽しいな・・・あの二人がいないから、気分が安定していられるな・・・
俺もすきっ腹にビール飲んで、酔っ払って、なんだかわけもなく楽しくなってきた・・・


斑目「いや〜・・・、やってくれるねぇ〜」
荻上「本当にねぇ!お似合いですよね・・・!」
斑目「・・・あの頃を思い出すよな・・・。」
笹原「今思えば楽しかったですよね・・・!」


俺の名前が呼ばれた。俺のスピーチの出番らしい。
酔いとコスプレの衝撃のおかげで緊張感はまったく無かった。


俺が大野さんを現視研の見学に招待したら、そこでコスプレの趣味が
あることがわかり、田中との息がピッタリだったこと。
大野さん達女性陣がいたおかげで、現視研
オタク系サークルの中でも異質の存在であり、
彼女らのおかげでそれなりな青春を送れたというような
内容をそつなく喋った。
でも俺は酔っ払っており、ついつい考えてきた以上の内容を口走ってしまった。


「まあ、彼女達のおかげで、最終的にミジメになった連中もいますがね、ハハハ・・・!」


会場の雰囲気は変わらなかったが、自分の席に帰ると、現視研のみんなは
どことなく笑顔がひきつっていた・・・ヤベ、俺、ヘンなこと言っちまったか?


遅れて春日部さんが一人で来た。高坂は出張中らしく、来れないらしい。
春日部さんは高坂からメッセージだけ預かってきていた。


咲「相変わらずパッとしない連中が固まってんな〜。」
斑目「うっせーな、来るのが遅いんだよ」
笹原妹「マジだよ。さっきのスピーチ超聞かせたかったよ!」
斑目「・・・」
咲「何何?何喋ったの?もっかい聞かせてよ!」
斑目「いーんだよ!ほら、ビンゴの紙回ってきたぞ!」
咲「斑目、加奈ちゃんとの写真撮ってよ」
斑目「ああ、いいよ。」


酔っ払ってるからか、まあフツーに、いたってフツーに
喋れる。田中、加奈子さん(もう大野さんではない)との写真を
撮った後は、笹原妹が俺と加奈子さんと春日部さんの
写真を撮ってくれた・・・。
最後に現視研のみんなで写真を撮った。
帰り際に、加奈子さんに「今日はありがとうございます!」って
言われた。田中には「お前も幸せになれよ」と言われた。


帰り道、一人で家路を歩いてた。雨はすっかり上がっていたが、
はき慣れない革靴の中は、水溜りを踏んづけたときに
入った水で濡れ、気持ちが悪かった・・・。

(おわり)