涼宮遙24歳(君が望む永遠(水月エンド))


やまない雨・・・
私が病院を退院してから、3年が経った。
あの頃の、熱病のような高校時代、そして、3年間の空白・・・
私はもう、すっかり元通りに歩けるようにはなったけど、
その代わりに、何かを失ってしまったような気がする・・・。


茜が水泳選手としてメキメキ力をつけて、それからはパパもママも大忙しで、
家族みんなで食事をすることは少なくなった。
私が事故に会う前の茜は、無邪気で、はつらつとしてて、
家族を太陽みたいに照らしてくれる存在だったけど、
今は私より落ち着いちゃったみたい。


パパやママは茜が水泳でいい成績をとると、自分のことのように
凄く喜ぶんだけど、茜自身はそんなところはあまり見せない。
「私は、今の私に出来ることをやるだけだから。」
そうつぶやく茜は、心なしか遠くを見ているよう。その先には、何があるの?
水月がいるの・・・?



3ヶ月前に、慎二君から電話があった。あの時以来、3年ぶりの電話だった。


慎二「こんばんは、俺、誰だと思う・・・?」
遙「え・・・?」
慎二「慎二だよ。忘れちゃった?」
遙「あ、慎二君、久しぶりだね・・・」
慎二「元気?今何してるの?」
遙「今?別に・・・。」
慎二「そう。俺さあ、今涼宮の家の近くに来てるんだよ。」
遙「そうなんだ・・・。」
慎二「凉宮、今彼氏とかいるの?」
遙「え?・・・いないよ・・・」
慎二「またまた〜、ウソばっかりついて〜。」
遙「・・・・・・・・・・本当だよ・・・」
慎二「ねえ、今週末に一緒に遊ばない?」
遙「え・・・?」
慎二「買い物とかさ、俺車持ってるし、どこでも連れて行ってあげるよ」
遙「そんな、いきなり・・・」
慎二「涼宮ってかわいいよな〜。本当にかわいいよ〜。」
遙「・・・慎二君、一体どうしたの・・・?」
慎二「これから一緒に遊ぼうよ〜。俺、涼宮の彼氏になりたいんだよ〜」
遙「慎二君、何か変だよ・・・」



慎二「そうか・・・涼宮って、やっぱり変わっちゃったな。」
遙「え・・・?」
慎二「本当は彼氏いるんだろ?ウソが上手くなったな」
遙「本当にいないよ・・・」
慎二「じゃあどうしてダメなんだよ?」
遙「・・・・・・・・・・」
慎二「・・・・・・・・」
遙「私、今いろいろなことがいっぱいあって、それでね、頭がいっぱいで・・・・」
慎二「・・・・・・・・」
遙「だから、そういうこと考えられない・・・」
慎二「・・・・・・・・そうか」
遙「ごめんね・・・」
慎二「いや・・・こっちこそごめんな、いきなり。」


あのとき慎二君は酔っ払ってるみたいだった。どうしたんだろう、彼女にでも振られたのかな。
私は知っている。あの頃慎二君は水月のことを好きだったってこと。


でも・・・3年ぶりの電話で、こういうのって無いよ・・・
慎二君、君のほうが変わったよ、慎二君にとって私って一体何だったの・・・?



慎二君とはそれっきりだった。
私はまたひとりになった。


でも、その電話があって以来、私は今までのことについて
もう一度考え直してみた。


孝之君に一目ぼれしたこと。親友の水月に恥ずかしいお願いをしたこと。
なんか水月と孝之君のほうがお似合いに見えちゃったこと。
遙伝説とか茜に言われて、孝之君に爆笑されて、恥ずかしかったけど、ちょっと嬉しかったこと。
孝之君に好きだって言われて、夢のような気持ちだったこと。


事故の後、記憶が戻ってから、孝之君と水月が付き合ってるって、すぐ気づいたこと。
私が3年間眠ってる間の二人を想像して、悔しくて悔しくて夜も眠れなかったこと・・・。


孝之君から旅立とうと決意したこと。一人で生きていくんだって決意したこと・・・。



今の私がいるのは、辛いこと、悔しいこと、悲しいこと含め、今までのことがあったからなのね・・・。
私だけじゃない、茜だって、きっとそうなんだ。
今の茜も、水月の背中を見てるから、泳いでいられるのね・・・。
私も茜も、水月と孝之君に走らされているんだ・・・。


私には絶対に手に入らないもの。でも、手に入らないからこそ、ほんとうのたからものなんだ。
私をいつまでも走らせる、いつまでたっても追いつかない、だけど、だからこそ消える
ことの無い背中なんだ・・・


絵本を描こう。絶対に追いつけないのかもしれないけど、この、ほんとうのたからもの
絵本にしよう・・・



いつしか雨はやんで、窓の外には、雲の隙間からかすかに太陽の光が
差し込んでいた。